ここ数十年で大きく変化した傷の手当方法。あなたは、まだ消毒液を使っていますか?
傷の手当方法が現在に至るまで
現在30代・40代の方、それ以上の年代の方は、
子供の頃、ひざ小僧をすりむいた時には
どのような手当をしていましたか?
1970年前後までは、「赤チン」「ヨーチン」を
塗るのが主流でした。
赤チンは「マーキュロクロム」といい、真っ赤な液体の消毒薬です。
同名の水銀を含んでいるため、日本では販売されなくなりましたが
それまでの子供達はみんな、身体のあちこちを赤く染めていました。
ヨーチンは「ヨードチンキ」で、今でも風邪をひいた時に
病院で“喉を焼く”のに使う、赤茶色の液体です。
やはり、皮膚に塗ると濃い色がついてしまいます。
1970年代に入ると、「マキロン」に代表される無色透明で
しみにくい消毒薬が登場し、
次第にそちらへシフトチェンジしていきました。
傷口を洗い流してからマキロンで消毒し、
ガーゼやカットバンで保護する。
このような手当が、ごく最近まで長期にわたって採用されていました。
なぜ傷口を消毒しない方が良いのか
しかし、ここ数年で創傷の治療法は大きく変化しました。
大きな変化の第1には、消毒薬を使用しないこと。
第2に傷口にガーゼなどをあてないこと。
そしてかさぶたを作らせないように、傷口を乾燥させず常に
湿っている状態にするタイプの被覆材を使用するのが主流です。
すり傷や切り傷は、放っておくとバイ菌が入って化膿し、
どんどん治りにくくなってしまうのだと、
長年の間考えられていました。
しかし、治療に使う消毒薬は、バイ菌を殺傷するばかりでなく
傷を治し再生しようとする皮膚の細胞にまでダメージを
与えることがわかってきました。
消毒をせず多少バイ菌が残っているよりも、
消毒薬で自然の治癒力を損なう方が治りが遅いのです。
そのような理由から、傷が深かったり、汚染された物で
傷を負った場合を除き、消毒は行わず、水道水や生理食塩水
などでよく洗うことが推奨されるようになりました。
ガーゼは体液を吸い、乾燥して傷口に貼り付いてしまう
傷口にあてたガーゼやカットバンが、乾燥した血液や体液で
傷口と一体化するように貼り付いてしまい、
剥がす時に再出血したり、赤ムケになってしまった経験は
ありませんか?
このような状態は痛みを伴い、傷跡も残りやすくなります。
傷口からにじみ出てくる体液(滲出液)は、
以前はまだまだ傷が治っていない証のように思われていました。
少し黄色がかった透明で粘り気がり、
膿んでいるように見えるためでしょう。
滲出液には、
皮膚組織を修復するのに必要不可欠な成分が含まれています。
ガーゼを使用すると、その大切な滲出液をすべて
吸い取って乾燥させてしまいます。
そこで、きれいに早く治すためには、傷口が常にその滲出液で
覆われ湿っている状態にするのがベストだと考えられ、
湿潤療法が採用されるようになったのです。
湿潤療法には専用の絆創膏を貼って
バンドエイドシリーズの「キズパワーパッド」など、
湿潤療法用の絆創膏が市販されています。
ハイドロコロイドという、水分を吸ってゲル化する素材が、
傷口をぴったりと覆って滲出液を保持します。
粘着力が強く、完全防水なので、
貼ったままお風呂に入っても大丈夫。
従前のカットバンと比べて、貼り替える回数も少なくて済みます。
テレビの情報番組で、家庭用のラップを使用する湿潤療法が
紹介されたことがありますが、専門家でなければ難しく、
ラップが医療用具ではないこともあり、現在では推奨されていません。